2026年10月20日|20分
コケで水をきれいに、金属を資源に。コケ博士が語る小さな植物の可能性 with 株式会社ジャパンモスファクトリー 井藤賀操 Part1
ゲスト: 井藤賀操(株式会社ジャパンモスファクトリー 取締役CMO)
道端や庭の片隅で見かけるコケ。その小さな植物が、水をきれいにし、金などの資源を回収する素材になるとしたら?
今回のゲストは、株式会社ジャパンモスファクトリーの「コケ博士」、井藤賀操さん。コケが金属を吸着する性質を生かし、水質浄化と金属資源の回収に取り組んでいます。技術の鍵になるのは、私たちが普段目にする葉や茎の姿になる前の、糸状の「原糸体」です。
Part1では、コケを「栽培」ではなく「培養」する理由から、金属を吸着する仕組み、大学での研究との出会い、屋上緑化の事業に携わるまでを伺います。身近なのに、よく知らないコケの世界。博士の話を聞くと、いつもの道端も少し違って見えてくるかもしれません。
- CMOは「チーフ・モス・オフィサー」。コケの会社は何をする?
- 見慣れたコケになる一歩手前、「原糸体」とは
- 金属がある環境でも生きられるコケの仕組み
- 水質浄化と資源回収につながる、金属の吸着能力
- 大学での出会いから始まった「コケ人生」
- 分類や進化の研究から、コケを社会に役立てる仕事へ
【ゲストプロフィール】
井藤賀操さんは博士(理学)。2002年に広島大学大学院理学研究科博士課程を修了し、理化学研究所で応用コケ植物学の研究に取り組みました。ヒョウタンゴケの原糸体を培養し、金属を吸着する性質を水質浄化や金属資源の回収に生かす研究を続け、2019年に株式会社ジャパンモスファクトリーを設立。研究成果を環境改善素材やフィルターとして社会で活用することに挑戦しています。
この回の内容
株式会社ジャパンモスファクトリー(JAPAN MOSS FACTORY)で取締役CMOを務める井藤賀操を迎えたシリーズのPart1。肩書きのCMOは「チーフ・モス・オフィサー」、つまり最高コケ責任者だという自己紹介から始まる。同社はコケ植物の培養をコア技術とし、育てたコケを金属吸着剤に加工している。私たちが道端や日本庭園で目にするコケは、葉や茎の姿をした芽が集まった群落(コロニー)で、その一歩手前に、胞子から伸びる糸状の「原糸体」という姿がある。同社は農業的な「栽培」ではなく、水槽の中で環境を人工的に制御して原糸体を増やす「培養」を行う。コケが金属を吸着する例として挙がるのが、銅葺き屋根から銅イオンの溶けた雨水が落ちる寺の軒下だ。殺菌作用のある銅のせいで多くの生物が暮らせない場所に、好んで生えるコケがある。都内の池上本門寺で1910年に見つかったホンモンジゴケで、細胞壁の多糖類に銅イオンをイオン結合させ、細胞の中に入れないことで生きている。銅を生命活動に使わない「排除型」の耐性だ。同社はこの吸着能力を、水中の重金属を取り除く水質浄化と、金や白金を集める金属資源回収の二つに生かす。国内でこの分野を切り開いたのは、国立環境研究所の酸性雨チームにいた佐竹研一で、酸性雨で溶け出た金属をコケが吸着するしくみの研究が先駆けになった。井藤賀は宇都宮大学農学部で食料増産を志したが、研究室にあったコケのテーマを選んだことから「コケ人生」が始まる。その後、種の分化や進化を研究したくなり、広島大学の理学系で博士課程に進んだ。コケの魅力は、身近にたくさんいるのに姿も暮らしぶりも知られていない絶妙なサイズにあるという。世界のコケは約2万種で、シダの約7000種を大きく上回る。社会に出る際は、ヒートアイランド対策の屋上緑化で注目されていた、30日間水を与えなくても生きられるスナゴケの緑化マット事業を手がける会社の新規事業部に入った、というところで次回に続く。
この回でわかること
コケを「栽培」ではなく「培養」するとはどういうことか?
栽培は自然の環境で日に当てて育てる農業的なイメージだが、培養は人工的に制御した環境の中で増やすこと。ジャパンモスファクトリーは水槽に水を入れ、その中でコケの原糸体を増やしている。
原糸体とは何か?
コケは胞子から一生が始まり、胞子が発芽すると糸状の細胞が伸びる。これが原糸体で、普段は地面を這うように広がる。そこから上向きに芽が出て、葉や茎の姿になったものが集まると、私たちがよく知るコケの群落になる。
コケはなぜ金属のある環境でも生きられるのか?
細胞のいちばん外側にある細胞壁の多糖類が、銅イオンなどとイオン結合して捕まえるから。金属が細胞の中に入ってこないので生きていける。銅を生命活動に使わず体の外で防ぐ、「排除型」の耐性だ。銅葺き屋根の寺に生えるホンモンジゴケがその例として挙がった。
コケの金属吸着能力は何に使えるのか?
二つある。一つは水質浄化で、水中の重金属を吸着して水をきれいにする。もう一つは金属資源回収で、金や白金のような経済価値の高い金属を吸着させて集める。ジャパンモスファクトリーはコケを培養して吸着剤に仕立てている。
井藤賀さんはどうしてコケの研究者になったのか?
宇都宮大学農学部で食料増産を志していたが、所属した研究室にあったコケのテーマを選んだのが始まり。その後、コケの種の分化や進化といった基礎研究がしたくなり、広島大学で博士課程に進んだ。社会に出る際は、屋上緑化のスナゴケ緑化マットを手がける会社の新規事業部に入った。
話したトピック
- CMOは「チーフ・モス・オフィサー」/コケを培養して金属吸着剤にする会社
- 見慣れたコケは群落(コロニー)、その一歩手前の糸状の「原糸体」
- 水槽の中で環境を制御して増やす、「栽培」とは違う「培養」
- 銅葺き屋根の寺に生えるホンモンジゴケと、細胞壁で銅イオンを止める排除型の耐性
- 吸着能力の二つの使い道:水質浄化と金・白金の資源回収
- 酸性雨研究から始まった国内のコケと金属の研究
- 宇都宮大学農学部で出会ったコケのテーマと、広島大学での種分化・進化の研究
- 世界に約2万種、シダより多いコケは地球に「君臨」している
- 屋上緑化のスナゴケ緑化マットで、コケを社会に役立てる仕事へ
この回の発言から
CMOはチーフモスオフィサーです
苔植物を培養しておりまして、そちらをコア技術としまして、お作りした苔の素材を金属吸着剤として加工する、そういう会社でございます
胞子が発芽します。すると原糸体という糸状の細胞がニョキニョキニョキと生育してくるんですけど
細胞の中に銅イオン入ってこないので、生きていけるんですよ
世界で2万種のコケが現世のこの世の中に存在してるんですよ
コケはですね、まずサイズがとても絶妙だと思うんですよ
当社のビジョンは、コケで地球環境を守るということを掲げておりまして