THE UPDATE

2026年9月3日|23分

イノベーションはどう起こす? with 東洋製罐グループホールディングス 竹内友里 Part3

ゲスト: 竹内友里(東洋製罐グループホールディングス株式会社 イノベーション推進室長代理)

イノベーションはどう起こす? with 東洋製罐グループホールディングス 竹内友里 Part3

東洋製罐グループホールディングスで、2万人の組織にイノベーションが起こる土壌をつくる竹内友里さんをお招きします。Part3では、レトルト殺菌でエビの「プリプリ感」が失われる理由、X線CTで見えた複雑な筋肉構造、約10年後にテレビ局が論文を見つけた経緯を追います。後半は、研究者にとっての日常を外の目で価値に変えるイノベーション推進室の役割と、フード3Dプリンターで食感を再現する未来を考えます。技術を捨てず、必要な人が現れるまで伝え続ける意味を聞きます。

  • 3m×5mほどのレトルト装置でも、研究なら缶詰1個から試せる
  • 高温で筋肉の束がほどけ、「一つずつ噛み切る」感覚が失われる理由
  • エビは約8割が水分、約2割がタンパク質――そのほとんどが筋肉
  • X線CTでエビの複雑な内部構造を壊さずに見る
  • 前斜筋、中央筋、後斜筋、横断筋という4つの筋群
  • カニの身は一方向に裂けるのに、エビの筋肉は編み物のように絡み合う
  • 「エビダッシュ」と、加熱しても丸まらせないための隠し包丁
  • 2010〜2011年の研究が、約10年後にテレビ局に見つけられた
  • 研究者には「日常」すぎて、自分の研究の価値に気づけない
  • 大量のエビを研究した竹内さんと、エビが大好きになった息子さんの「エビの呪い」
  • フード3Dプリンターで筋肉構造を組み直し、プリプリ感を再現できるか
  • 技術を捨てず、見える場所に置き、必要な人が現れるまで伝え続ける

この回の内容

東洋製罐グループホールディングスのイノベーション推進室長代理・竹内友里を迎えたシリーズのPart3。Part2の最後に出た「エビのプリプリ感」研究を、東洋食品研究所での実験から辿る。実験用のエビを買って剥き、缶詰やパウチに詰めてレトルト殺菌にかける。3m×5mほどある大きな装置だが、研究所なので缶詰1個からでも試せる。何個やってもプリプリ感は戻らず「もそもそ」になるので、そもそもエビはなぜプリプリしているのかを調べ始めた。使ったのはX線CT。当時の食品研究所には無い装置だが、東洋製罐本体が容器の接合部を壊さずに見る非破壊検査のために導入していたので、そこにエビをかけた。エビは約8割が水分、約2割がタンパク質で、身はほとんど筋肉。内部には前斜筋・後斜筋・中央筋・横断筋の4つの筋群があり、前部斜筋・中央筋・後部斜筋がひと組になって3つ並び、その間に横断筋がクッションのように挟まる。カニの足の身は筋肉の束が一方向で裂けるが、エビは編み物のように絡み合っている。この構造が、閉じて開いて進む「エビダッシュ」の伸び縮みを生み、加熱で丸まらせないための隠し包丁は長い斜筋を切っている。プリプリ感の測定にはレオメーター(クリープメーター)を使い、上からプランジャーで押すとピークが5つ出た。噛んだときに感じているのは、筋肉の束を1つずつ切っている手応えだった。それがレトルトで失われるのは、100度以上の加熱と水によって加水分解が進み、筋線維同士を結ぶコラーゲンが溶け出して束がほぐれてしまうから。論文は2010〜2011年ごろに通ったが、その後しばらく反応はなく、約10年後にテレビ局が論文を見つけて連絡してきた。研究者には日常すぎて自分の価値に気づけない——だからこそ発信し、見える場所に置いておく。最後は、フード3Dプリンターで筋肉構造を組み直せばエビ缶はできるかもしれない、という話まで。

この回でわかること

エビのプリプリ感はどこから来ているのか?

筋肉の構造から来ている。エビは約8割が水分、約2割がタンパク質で、身はほとんど筋肉。内部には前斜筋・後斜筋・中央筋・横断筋の4つの筋群があり、前部斜筋・中央筋・後部斜筋がひと組になって3つ並び、その間に横断筋がクッションのように挟まる。カニの足の身は筋肉の束が一方向で裂けるのに対し、エビは編み物のように絡み合っている。

プリプリ感はどうやって測ったのか?

レオメーター(クリープメーター)で、噛むのと同じように上からプランジャーで押し、返ってくる抵抗を測った。筋肉が重なっているところを押すとピークが5つ出る。噛んだときにプリプリと感じているのは、筋肉の束を1つずつ切っていく手応えだった。

なぜレトルト殺菌でプリプリ感が失われるのか?

100度以上の加熱と水の存在によって加水分解が進むから。筋線維同士を結合しているコラーゲンが溶け出し、1つ1つの筋肉の束がほぐれてしまうため、束を噛み切る感覚がなくなり「もそもそ」とした食感になる。圧力よりも加熱温度の影響が大きいという。

エビの内部構造はどうやって見たのか?

X線CTを使い、壊さずに内部を見た。当時の食品研究所にそんな装置は無かったが、東洋製罐本体が容器の接合部を非破壊で検査するために導入していたので、そこにエビをかけてみた。容器のための設備が、食感の研究に回った形になる。

研究の価値はいつ、どう見出されたのか?

論文が通ったのは2010〜2011年ごろで、その後しばらく反応は無かった。約10年後にテレビ局が論文を見つけて連絡してきた。研究者には日常すぎて自分の価値に気づけないので、価値が分からなくてもまず発信し、技術を捨てずに見える場所へ置いておくことが大事だという——「氷結」のダイヤカット缶と同じ、時期が合ったときに掘り出される話でもある。

話したトピック

  • 研究所なら缶詰1個から試せる/3m×5mほどのレトルト装置
  • 何度やっても「もそもそ」になる/ならばプリプリ感はどこから来るのか
  • 容器の非破壊検査用に導入されたX線CTで、エビの内部を壊さず見る
  • 前斜筋・後斜筋・中央筋・横断筋——エビの4つの筋群
  • カニの身は一方向に裂けるが、エビの筋肉は編み物のように絡み合う
  • 「エビダッシュ」の伸び縮みと、加熱で丸まらせない隠し包丁
  • レオメーターで押すと出る5つのピーク=束を1つずつ噛み切る手応え
  • 加水分解でコラーゲンが溶け、束がほぐれて食感が戻らなくなる
  • 2010〜2011年の論文が、約10年後にテレビ局に見つけられる
  • 研究者には「日常」すぎて価値に気づけない/外の目を持つ推進室の役割
  • フード3Dプリンターで筋肉構造を組み直せば、エビ缶はできるか

この回の発言から

じゃあそもそもプリプリ感ってどうして発現しているんだろう、エビはどうしてプリプリしているんだろう、研究し始めたんですよ
— 竹内友里
ちなみにエビは8割が水分で2割がタンパク質、ほとんど筋肉でできているんですよ
— 竹内友里
エビには4つの筋肉があります
— 竹内友里
例えばカニの足の身を見てみると、もう一方方向じゃないですか、筋肉が
— 竹内友里
あとですね、エビのプリプリ感を測定することもやったんですよね
— 竹内友里
そうすると、ピークが5つぐらい出てくんですね
— 竹内友里
特に私はコラーゲンっていうものに注目していまして、それは筋線維同士を結合するところにコラーゲンがあるんですけど、それが加水分解によって溶け出してしまうから、1個1個の筋肉の束っていうものがほぐれてしまう
— 竹内友里
なのでやっぱり発信が大切なんだなと思ったわけですよ。時間が経っても価値を見出してくれる人が出てくるなと思っていて
— 竹内友里
日常なので気づけなくって、だからやっぱり、自分では価値が分からなかった
— 竹内友里
今このフード3Dプリンターがあれば、さっき話した斜筋とか中央筋とか作れるじゃないですか
— 竹内友里
イノベーションってなんか華々しく聞こえますけど、やってきたことを大切にして、必要な人が出てくるまでそれをみんなの見せる場所に置いといたりとか、伝えていったりとかっていう結構地道な活動かなと思っています
— 竹内友里

このシリーズのエピソード

イノベーションはどう起こす? with 東洋製罐グループホールディングス 竹内友里