「生きて腸まで届く」という表現はよく目にします。では、届いた菌はその後どうなるのか。そのまま住み着いて、自分の腸内細菌の一員になるのでしょうか。

Podcast『The Update』で、株式会社メタジェンの腸内環境研究者・伊藤正樹さんに聞いたところ、答えははっきりしていました。菌は住人ではなく、ゲストです。

届いた菌は、しばらくすると出ていく

伊藤さんの説明によれば、ヨーグルトなどから摂取した菌は、生きて腸に到達したとしても、しばらくすると腸内から出ていきます。番組のなかでは、期間を区切って働く契約社員のようなものだという言い方がされていました。

これは直感に反するかもしれません。しかし考えてみれば、腸内にはすでに1,000種類規模の菌がひしめいています(総数の推定は40兆とも100兆とも言われ、幅があります)。そこに外から入ってきた少数の菌が定住の場所を確保するのは、単純に難しい。

同じシリーズで語られた土壌の話とも似ています。既存の生態系にあとから入るのは、どこでも簡単ではないということです。

それでも食べる意味がある理由

住み着かないなら食べても無駄なのか。ここが誤解されやすいところです。

伊藤さんが挙げたのは、腸内細菌と人体のあいだで起きている情報のやりとりでした。

菌も自分たちのお腹の中で、メッセンジャーRNAをバーッと分泌するんです、外に。で、それが僕たちの血中に入ってくることはわかっているので、常にお腹の中に良い菌がいたら、その良い菌から出てくるタンパク質の発現指令を、僕らもずっと受け取り続けているんですよね

— 伊藤正樹さん(Podcast『The Update』「うんこから健康がわかる?」Part3

つまり菌は、そこにいるあいだ働いています。分泌された物質が血中に入り、人体側の反応に影響する。定住するかどうかと、滞在中に仕事をするかどうかは別の問題です。

この見方に立つと、毎日食べることの意味も変わってきます。菌が2週間ほどで出ていくのなら、途切れさせないために継続する。定着させるためではなく、常に誰かが働いている状態を保つために続ける、ということになります。

自分に合う菌を見積もれるかもしれない

とはいえ、どの菌が自分に合うのかがわかれば効率的です。この点について、伊藤さんは研究段階の話として次を紹介していました。

自分の腸内細菌のタイプによって、どのヨーグルトの菌が定着しやすいかを見積もることができるかもしれないっていうのが、この間、Nature Communicationsに出てたと思います

— 伊藤正樹さん(Podcast『The Update』「うんこから健康がわかる?」Part3

もともと持っている腸内細菌の構成によって、外から来た菌が居場所を見つけられるかどうかが変わる。だとすれば、自分の菌叢を調べれば相性のいい菌を推定できるかもしれない、という発想です。

伊藤さんはこれをいまホットなトピックだとしていました。裏を返せば、現時点では確立した選び方はないということでもあります。当面は、しばらく同じものを続けてお腹の反応を見る、という実地の方法に頼ることになります。

菌だけ入れても足りない

もうひとつ、実践面で重要な指摘がありました。菌を入れることと、菌が働ける環境を作ることは別だという話です。

菌が入ってきたら餌も一緒に入れてあげるというプロセスは、セットにしておいていただくと、いいと思います

— 伊藤正樹さん(Podcast『The Update』「うんこから健康がわかる?」Part3

菌の餌になるのは食物繊維やオリゴ糖です。菌だけを入れるのは、伊藤さんの比喩で言えば「ゲストを呼んだだけ」の状態にあたります。食事を用意しなければ、ゲストは何もせずに帰ってしまう。

具体的には、ヨーグルトにオリゴ糖やはちみつを合わせる、食物繊維の多い穀物と一緒に取るといった組み合わせになります。個別の製品の話ではなく、菌と餌をセットで考えるという原則の話です。

「定着するか」より「働いているか」

この話の要点は、問いの立て方そのものにあります。

「この菌は定着するのか」と考えると、答えはほぼノーになり、そこで止まってしまいます。しかし「いま自分の腸内で菌が働ける状態になっているか」と考えると、やることが具体的に出てきます。菌を切らさないこと、餌を入れること、自分のお腹の反応を見ること。

腸内細菌の顔ぶれは人によって違うので、誰にでも効く正解はありません。だからこそ、一般論の当てはめより自分の観察のほうが役に立ちます。便の状態は、その観察に使える身近な指標のひとつです。