「腸活」という言葉のなかで、いちばん実体がつかみにくいのが短鎖脂肪酸かもしれません。よく聞くけれど、何なのか、どうすれば増えるのかがはっきりしない。
Podcast『The Update』では、株式会社メタジェンで腸内環境を研究する伊藤正樹さんに、この物質が体のなかで何をしているのかを聞きました。話を整理すると、短鎖脂肪酸とは「自分では作れないので、腸内細菌に作ってもらうしかないもの」だとわかります。
短鎖脂肪酸とは何か
短鎖脂肪酸は、腸内細菌が食物繊維を発酵させたときに生まれる物質の総称です。代表的なものに酢酸・プロピオン酸・酪酸があり、大腸の粘膜細胞のエネルギー源になったり、腸の環境を弱酸性に保ったりする役割が知られています。
伊藤さんは、体のエネルギー生産と結びつけてこう表現しました。
そのミトコンドリアがエネルギーを生み出すためのエンジンだとしたら、そこに入れるガソリン。これが短鎖脂肪酸です
— 伊藤正樹さん(Podcast『The Update』「うんこから健康がわかる?」Part1)
エンジンがあっても燃料がなければ動きません。ここで重要なのは、この燃料を作るのは自分の細胞ではなく、腸内細菌だということです。人間は食物繊維を自力で分解できません。だから腸内細菌に分解してもらい、その副産物を受け取っている。
腸内細菌の規模について、伊藤さんはおよそ1,000種類・40兆個という数字を挙げています(総数は100兆個とする資料もあり、推定には幅があります)。伊藤さんはこれをコンピューターに例えて、腸内環境こそがGPUのようなものだと語っています。膨大な数のプロセッサが同時並行で働いて、人間の代謝を支えているという見方です。
お酢を飲むのとは何が違うのか
短鎖脂肪酸のひとつが酢酸だと知ると、「ではお酢を飲めばいいのでは」という発想が出てきます。これについて伊藤さんは明確に否定しています。
お酢を飲んだら、小腸で吸収されて血中にスッと入ります。スッと入って、ファッと消費されていく。だけど腸内細菌に短鎖脂肪酸を作らせるというのは、時間をかけてじっくり、じわーっと、長く継続して作ってくれる
— 伊藤正樹さん(Podcast『The Update』「うんこから健康がわかる?」Part1)
違いは届く場所と持続時間の2点です。
飲んだ酢酸は小腸で吸収されてしまうため、そもそも大腸まで届きません。しかし短鎖脂肪酸が働くのは主に大腸です。さらに、飲んだものは一度に吸収されて短時間で消費されますが、腸内細菌が作る場合は食物繊維が残っているあいだ供給が続きます。
つまり、口から入れるのは「一回分の燃料」、細菌に作らせるのは「燃料を作り続ける工場」ということになります。目指すべきは後者です。
野菜を食べることと、食物繊維を取ることは違う
短鎖脂肪酸を増やす方法は、要するに腸内細菌の餌である食物繊維を増やすことに尽きます。ただし伊藤さんは、ここで多くの人が取り違えていることを指摘しています。
野菜というよりも食物繊維。野菜は大事なんです。ミネラルとか、いろいろな栄養が入っている。それはそれで大事なんですけど、それと別軸で食物繊維を取るということを意識していただきたいなと思っています
— 伊藤正樹さん(Podcast『The Update』「うんこから健康がわかる?」Part1)
「緑黄色野菜を1日に手のひらいっぱい」という目安は、多くの場合カロテンやミネラルを取る文脈のものです。食物繊維を狙うなら、別の軸で考える必要があります。
数字で見るとその差は明らかです。
スーパーの生鮮コーナーに売っている物で、食物繊維が一番多いのは、ごぼうです
— 伊藤正樹さん(Podcast『The Update』「うんこから健康がわかる?」Part3)
そのごぼうでさえ、100グラムあたり5.7グラムです(日本食品標準成分表2020年版)。「日本人の食事摂取基準(2025年版)」の目標量は成人男性で20〜22グラム以上、成人女性で17〜18グラム以上(いずれも年齢による)。仮に男性がごぼうだけで賄おうとすると、1日に350グラム以上を食べる計算になります。現実的ではありません。
なお、生活習慣病の予防という観点では1日25グラム以上が理想とされています。目標量はこの理想値と日本人の実際の摂取量の中間に置かれた数字なので、届いたら十分というより、下限に近いものだと考えたほうがいい。
効率がいいのは穀物と海藻
そこで比重を上げるべきなのが穀物と海藻です。グラノーラ、麦、麺といった主食を食物繊維の多いものに置き換えるほうが、副菜を増やすより量を稼げます。主食は毎日食べるので、一度習慣を変えれば継続もしやすい。
もうひとつ効くのが種類の多様性です。伊藤さんは、同じ重量ならパウダー状のサプリメントよりも、根菜・豆・穀物といった多様な食品から取るほうが腸内環境には良いと述べています。
腸内細菌は1,000種類いて、それぞれ得意な餌が違うためです。単一のパウダーでは一部の菌しか働かせられませんが、根菜・豆・穀物・海藻と散らせば、より多くの菌に仕事が回る。同じ量を取っても、中身の多様性で結果が変わるということです。
「腸活にいいもの」は人によって違う
最後にひとつ、番組で繰り返されていた前提があります。腸内細菌の顔ぶれは人によって違うので、誰にでも効く正解はないということです。
同じヨーグルトを食べても、同じ食物繊維を取っても、反応は人それぞれ違います。だからこそ、一般論としての「これがいい」よりも、自分のお腹がどう反応したかを観察するほうが確実です。便の状態は毎日確認できる指標のひとつになります。
短鎖脂肪酸そのものは目に見えません。しかし、食物繊維を増やしたときに便の形や頻度がどう変わるかは見えます。まずはそこから始めるのが現実的です。