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2026年6月12日|22分

田んぼと土壌の不思議 with 土壌学者 藤井一至教授 Part2

ゲスト: 藤井一至(福島国際研究教育機構 土壌学者)

田んぼと土壌の不思議 with 土壌学者 藤井一至教授 Part2

『土と生命の46億年史』の著者である土壌学者の藤井一至先生に、田んぼや土の不思議をお聞きします。福島国際研究教育機構・土壌ホメオスタシス研究ユニットリーダー(元国立研究開発法人森林研究・整備機構・森林総合研究所主任研究員)。

  • 歴史上の人物は新田開発のリーダーでもあった
  • 40万kmにも及ぶ用水路の維持ができない
  • マスコミの報じ方とはちがう直播
  • 田んぼの多面的機能
  • 農家の公的な役割が可視化できるかもしれない
  • 田んぼの収穫量がずっと安定している謎
  • 普通は土壌が劣化して崩壊する
  • 微生物にとっての環境
  • 土の名探偵サスペンスもの!?
  • 未だに土を製造することはできない

この回の内容

シリーズ第2部では、案内役の川崎佑治と土壌学者・藤井一至が、日本の水田を支えるインフラと恒常性の謎を掘り下げる。前半は水田開拓史の続きで、卑弥呼の時代以降の歴史上の人物が実は土木事業のリーダーであったこと、武田信玄の信玄堤から豊臣秀吉・徳川家康による利根川の付け替えへと工事が大規模化した流れを概観する。総延長40万kmに及ぶ用水路の維持には人口密度が不可欠で、田んぼは人手を要するがゆえに人口を養い、その人口がさらに田んぼを支える循環にあると指摘。しかし人口減少と過疎化で、春先の泥上げを高齢者が担う現状や、土地改良区が「どこを整備するか」でなく「どこを辞めるか」を考える段階に入っていることを語る。そこで水を張らない田んぼ(直播)や、メタン排出を抑える新技術が模索されるが、藤井はこれらを農業技術の逆行とも捉えつつ、DNA解析など新たな技術で再挑戦する意義を認める。重要な論点として、田んぼの「多面的機能」(洪水緩和・国土保全など)を可視化しマネタイズすれば、経営として成り立たなくとも農林水産省だけでなく国交省・総務省を含む国全体で担うべき事業になりうると展望する。後半は恒常性の科学に移り、北海道から沖縄まで約20年間反収が横ばいという田んぼの安定性、エントロピー増大に抗う仕組みを解説。畑にもホメオスタシスがある例として、人参のセンチュウの卵を溶かすキチナーゼを出すカビの働き、微生物が定着するにはpH・物理性・化学性という基盤が必要なことを述べる。さらに腐植酸は構造式が未解明で土は人工的に製造できないこと、土壌鑑定では火山灰・軽石・鉱物の顕微鏡観察やDNA・重金属分析が手がかりになること、大さじ一杯の土に約1万種の微生物が分業して落ち葉を土に変えていることを語る。

この回でわかること

日本の用水路はどれくらいあり、なぜ維持できてきたのか?

総延長は40万kmに及ぶ。維持には人口密度が不可欠で、田んぼは人手を要するがゆえに人口を養い、その人口がさらに田んぼを支える循環にあると藤井一至は指摘する。

人口減少は田んぼに何をもたらすのか?

春先の泥上げを高齢者が担う現状があり、土地改良区は「どこを整備するか」ではなく「どこを辞めるか」を考える段階に入っている。水を張らない田んぼ(直播)やメタン排出を抑える新技術も模索されており、藤井はこれを農業技術の逆行とも捉えつつ、DNA解析などで再挑戦する意義を認める。

田んぼを事業として成り立たせるにはどうすればよいか?

藤井は、田んぼの「多面的機能」(洪水緩和・国土保全など)を可視化しマネタイズする道を挙げる。そうすれば経営として成り立たなくとも、農林水産省だけでなく国交省・総務省を含む国全体で担うべき事業になりうると展望する。

なぜ田んぼは毎年同じように収穫できるのか?

北海道から沖縄まで約20年間反収が横ばいという安定性があり、エントロピー増大に抗う恒常性の仕組みが働いている。畑にもホメオスタシスはあり、人参のセンチュウの卵を溶かすキチナーゼを出すカビの例が挙げられる。ただし微生物が定着するにはpH・物理性・化学性という基盤が必要になる。

土は人工的に作れるのか?

作れない。腐植酸は構造式が未解明で、大さじ一杯の土に約1万種の微生物が分業して落ち葉を土に変えている。土壌鑑定では火山灰・軽石・鉱物の顕微鏡観察やDNA・重金属分析が手がかりになる。

話したトピック

  • 水田開拓史と土木事業の大規模化
  • 用水路40万kmの維持と人口密度の関係
  • 人口減少・過疎化によるインフラ維持の困難
  • 水を張らない田んぼ(直播)と新技術
  • 多面的機能の可視化とマネタイズ・国土保全
  • 田んぼの反収の安定(恒常性)
  • 畑のホメオスタシスとセンチュウ・キチナーゼ
  • 微生物定着の基盤としてのpH・物理性・化学性
  • 腐植酸の複雑さと土が製造できない理由
  • 土壌鑑定(火山灰・鉱物・DNA・重金属)と微生物の多様性

この回の発言から

ちょっと田舎にこの時期行くと、本当に80歳ぐらいのおじいちゃんおばあちゃんが春先に用水路の泥上げとかやってますからね。もう過疎化でギリギリになってるっていう
— 藤井一至
昔は用水路を整備するのが仕事だった土地改良区みたいなのも、今どっちかというと、どこを辞めるかっていう、そういう感じになってますよね
— 藤井一至
基本的に人口が多いところが田んぼをやれる条件で、いろんな人手間がかかるから、逆に人口が増えるのは何でかっていうと、やっぱり田んぼをやれてるからなんですよね
— 藤井一至
北海道から沖縄まで、ここ20年ぐらい収穫量がずっと横ばいなんですよね。これはホメオスタシスって言うんですけど、こんなに安定してる
— 藤井一至
これはただの農業だけじゃなくて国土レベルでやらなきゃいけない。農水省だけじゃなくて国交省あるいは総務省、国全体でやるべきことなんだってなったら、経営としては農家は成り立たなくても、これはやらなきゃいけないってなる可能性が出てくる
— 藤井一至
いまだに土を製造することはできない
— 藤井一至

この回から生まれた記事

  • 土とは何か?

    土壌学では何を「土」と呼ぶのか。岩石と生物が交わった場所という定義から、殺菌した土が土でなくなる理由、そして月のレゴリスをNASAが土と呼ぶまでを解説。

このシリーズのエピソード

田んぼと土壌の不思議 with 土壌学者 藤井一至教授